本の紹介
久しぶりに、長く傍らに置いておきたい本に出会った。ようやく他者に伝える言葉が自分に宿ったので、紹介します。 文学研究者である著者による、「よい文章とは何か」を考えるエッセイ集。「よい文章を書くための入門書」ではなく、ましてや「技術書」「指南…
声の地層 災禍と痛みを語ること/瀬尾夏美 生きのびるブックス 「そういえば今日は9・11ですね。当日、なにしていました?」9月11日にそう聞かれ、23年前をふと思い出した。高校時代、毎朝早く起きて(剣道部だった)素振りをすることを自分に課していた。早…
ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義/岡真理 大和書房 「自分に解決できない問題は、自分の目の前に現れない」そういった言葉を自己啓発本かなにかで知って、その通りなのだと思っていた。裏を返せば、自分に降りかかってくる問題はすべて、自分の…
暗闇の効用/ヨハン・エクレフ 永盛鷹司 訳 太田出版 タイトルに惹かれ、購入。ジャケット買いならぬ、タイトル買いは、久しぶりのこと。 「静寂」と並んで、今の社会を穏やかに、かつ強かに生きるために必要なことを示唆する言葉が「暗闇」だと思っている。…
眠れないあなたに おだやかな心をつくる処方箋/松浦弥太郎 小学館 嫌なことがあって、心に傷がつき、眠れないと感じる日はありますか。憂鬱なことが控えていて、不安に押しつぶされてとても寝る気になれない日はありますか。きっと多かれ少なかれ、皆そうし…
ともしび/junaida サンリード junaida 待望の新刊はオリジナル詩画集。鉛筆だけで描かれたモノクロのイラストに、詩が一篇、添えられている。1ページ見開きで1編ずつとなっているので、どのページから読んでも楽しめる。 junaidaのこれまでの画に見るような…
世界/junaida 福音館書店 自分という一人の人間が、生まれて、生きて、果てるまでの間には、膨大な時間が流れていて、膨大な人間同士の交流があって、膨大な数の物語がある。当事者の目線で、目の前のことだけに一生懸命でいたら、つい見落としてしまいそう…
ぼくのコーヒー地図/岡本仁 平凡社 コーヒーが好きだ。だから、コーヒーを飲みながらくつろぐ時間だけは、どんなに忙しくても、欲しい時に必ず確保できるようでありたいと思っている。ただよくよく考えたら、コーヒーそのものが好きというより、コーヒーブレ…
つくる人になるために 若き建築家と思想家の往復書簡/光嶋裕介 青木真兵 灯光舎 今月は、自分の裁量でやることを決められる日が比較的多い。自営業を始めてから、そのような日のことをオフと呼んでいる。勤めがなく、店番や出張、本の入れ替え等のための外出…
ロゴスと巻貝/小津夜景 アノニマ・スタジオ 自宅近くの本屋2軒に置いていなくて、他の書店を探したけれどそれでも見つからなくて、新刊でもこういうことってあるんだ、と肩を落としながら数日を過ごした。職場の近くである神保町で見つけた時に買っておくべ…
詩集 ことばのきせき/若松英輔 亜紀書房 自分の口から出る言葉にもっと意識を向けて、丁寧に話をしよう、と思っている。それは、どういった言葉を選ぶかだけでなく、声のトーン、速さ、強弱、間という要素も関わってくる。口をついて出た言葉は、その鋭さに…
トミイマサコ作品集 トミドロン/トミイマサコ パイ・インターナショナル イラストレーター・トミイマサコの作品集。活動初期から近年までのオリジナルイラスト、お仕事イラストを中心に一冊に凝縮している。 デジタルな風合いのイラストの中であっても、登場…
ゆきのゆきちゃん/きくちちき ミシマ社 可愛らしい猫が登場する冬の傑作絵本が誕生しました。 「わたし ゆきちゃん」「ゆきちゃん」という名前の猫が、なんで雪と同じ名前か知っている?と友達に尋ねる。友達がそれに答えながら、「うれしくなって」雪の中を…
ことばのくすり 感性を磨き、不安を和らげる33篇/稲葉俊郎 大和書房 「ことば」には2種類の性格のものがあると思っている。薬になることばと、毒になる言葉だ。 今、主にSNSを通じてあふれ出る情報を好きなだけ受け取ることができる。ほんの20年前には想像も…
英国本屋めぐり ー本と本を愛する人に出会う旅/著:ルイーズ・ボランド 訳:ユウコ・ペリー サウザンブック社 異国を旅するということに対してあまりワクワクしない自分は、きっと大人としての情緒を持ち合わせていないのだと思う。新しいものを見てまわって…
ガウディの独り言/写真:藤井友樹 解説:田中裕也 絵:谷口登茂子 アートダイジェスト 「ガウディ展」を観に東京国立近代美術館に行ったのは真夏の、ものすごく暑い日だった。お茶の水から神保町、そして竹橋へと歩いたのを思い出す。あまりの大人気で、並ぶ…
夏みかんの午後/永井宏 信陽堂 自分が仕事をしていて、ああ、一生懸命やって良かったなあ、と安心するのはどんなときだろうか、と振り返る。そうするとたいてい、「ありがとうございます」と顧客に声を掛けられた瞬間が思い浮かぶ。その時の具体的な情景はほ…
どすこいみいちゃんパンやさん/町田尚子 ほるぷ出版 町田尚子さんの猫の絵本を読んでいると、ほんとうに猫のことをじっくり見て、愛しているんだなあと驚く。例えば本の角にほほをこすりつけて気持ちよさそうにするところとか(「ねこはるすばん」参照)。そ…
くちぶえサンドイッチ/松浦弥太郎 DAI-X出版 数ある松浦弥太郎さんのエッセイの中でも、最も好きで、宝物のように大切にしているのが本書である。よく行くレストランの店員さんに「いつもありがとうございます」と言われて飛び跳ねるくらい嬉しい気持ちにな…
メメンとモリ/ヨシタケシンスケ KADOKAWA モノに対する執着が少なくなった。完全になくなった、とまでは言えないけれど、昔ほど「なんとしても●●を手に入れたい」と思わなくなった。それが心の成長なのか、逆に購買意欲の鈍化なのかは分からないけれど、少な…
塑する思考/佐藤卓 新潮社 「塑」という言葉の意味を、高校の化学の授業で初めて知った。樹脂にはその性質に応じて「熱硬化性樹脂」と「熱可塑性樹脂」の二つに分類される、というものだ。硬化はすぐわかるけれど、可塑って何?そこで、変形した状態を維持し…
ホントのコイズミさん WANDERING/小泉今日子 303BOOKS 本を読むことで得られる「うまみ」の大きな一つは、そこで学んだことを実行することで自分なりの「経験に裏打ちされた実績」を作れることだと思っている。ああ、そういう考え方があったのか、と驚くだけ…
東京わざわざ行きたい街の本屋さん/和氣正幸 株式会社G.B. 他の「本屋さんの本」をいろいろ買って読んでいたので、ずっと見過ごしていた本を、最近改めて手に取った。「わざわざ行きたい」と思わせるためにはどんな工夫が必要なのだろうか、また街の本屋さん…
舞台のかすみが晴れるころ/有松遼一 ちいさいミシマ社 また美しい本に出会った。ほんの少し凹凸のある紙の表紙。カバーはなく、直接表紙に印字された装丁。代々の一家ではなく「外の世界からプロの道に入った」いち能楽師が、コロナ禍で予定が激減する中で立…
疲れすぎて眠れぬ夜のために/内田樹 KADOKAWA ずいぶん前に買ってちびちび読んではいたのだけれど、しばらく読み進められないまま、いつのまにか手放してしまった、そんな本がある。たまにタイトルを目にすると、「そう言えば買って読んだな。でも今はほとん…
撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて/内田樹 編 晶文社 「これは何かが間違っている」と思ったのなら、潔く撤退すること。それが本当の知性だ。ずるずる続けて傷口を広げるより、ずっと良い。しばらく前にそのようなことを何かの本で読んで、意識が180度変…
よるにおばけと/みなはむ ミシマ社 大学時代。一緒に講義を受けるような友達がいなくて、ひとりでポツンと聴いているとなんだか「あいつ友達いないんじゃないか」と思われるのが嫌で、講義自体には興味があるのに、家を出るのが苦痛で仕方ないことがあった。…
ころべばいいのに/ヨシタケシンスケ ブロンズ新社 嫌なことがあったとき。思い通りにいかないとき。他人の言動にイライラするとき・・・。そういうときの自分の心にやってくる、ちょっとした悪魔的な感情を、多少オブラートには包んでいるものの、サラっと、…
毎日、一輪。はじめて花・葉・枝を生ける人のための手引帖。/小野木彩香 エクスナレッジ 以前、タレントのユースケ・サンタマリアさんがテレビ番組で「ぼく、一輪挿しが好きでね、部屋に花を途絶えさせたことないです」と言っていて、素敵だなと思った記憶が…
幸せに長生きするための今週のメニュー/詩:ロビン・ロイド 絵:中川学 ミシマ社 休日。いつもよりちょっと遅くまで寝ている。日中の時間が短くなるけれど、まあどうだっていいや、と一日の始まりから諦めモードだ。身体がうずうずしてきて「そろそろ立たな…