舞台のかすみが晴れるころ/有松遼一 ちいさいミシマ社
また美しい本に出会った。ほんの少し凹凸のある紙の表紙。カバーはなく、直接表紙に印字された装丁。代々の一家ではなく「外の世界からプロの道に入った」いち能楽師が、コロナ禍で予定が激減する中で立ち止まって考えたことを綴ったエッセイだ。
「はじめに」を読んで、読む前からこれはすごいエッセイだろうと予感した。著者は「われながら散らかった人生の歩みに驚く。(中略)取り集めてきた人生のピースがどう結果するか誰もわからない。」と言っている。散らかった歩みをしてきているな、という漠然とした不安、後悔、コンプレックスみたいなものは私も感じていた。そういう歩みであってもどこかへ収束していくのかもしれない、という淡い期待を持たせてくれるに十分な言葉に、「はじめに」で出会えた。
コロナ禍が、人に立ち止まって考える時間を与えたという、結果論ではあるけれど、プラスの側面も見過ごしてはいけないのだと感じた。