百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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ロゴスと巻貝

ロゴスと巻貝/小津夜景 アノニマ・スタジオ

 

自宅近くの本屋2軒に置いていなくて、他の書店を探したけれどそれでも見つからなくて、新刊でもこういうことってあるんだ、と肩を落としながら数日を過ごした。職場の近くである神保町で見つけた時に買っておくべきだった。自分で仕入れて自分で購入すればいいじゃないか、と心の中の自分が言っている。ただ、気に入った本はなるべく本屋で買いたい、という上手く言葉で説明できないわがままを抱えている。そして昨日、気になっていて昨日初めて訪れた三軒茶屋の「twililight」で、ようやく買うことができた。もちろん仕入れてもいますので、気になる方はぜひ手に取ってみてくださいね。

 

著者が自身の暮らしを読んだ本と結び付けて綴ったエッセイ集。シンプルな構成だけれど、こういう本をずっと私は待ち望んでいて、読みたいと思っていて、また自身も書きたいと思っていた。そのストライクゾーンにぴたっとはまった本を、ようやく手にすることができたと思った。

 

読み始めて早々、胸をつらぬいたフレーズがある。自分の好きな本、推し本を紹介するというスタンスはとっておらず、その理由を著者はこう言っている。

 

ただしいわゆる読書遍歴は語らないし読書愛にも触れない。折々の転換点や思い入れに光をあてて全体を織り上げると人生が物語性を帯びてしまうから。同じ理由から良書リストを編む気もない。日々のどうってことない瞬間を拾いながら、その場でひらめいた本を添えていくつもりだ。(「読書というもの」より)

 

私は本屋という仕事を通して、私自身が「こういうことがあってさ。こんなときに救いになった言葉があってね」というように、実体験をもとにした「オススメ本」を紹介することに力を注いできた。そうすることで、受け手にダイレクトに本の面白さが伝わる、と信じて疑わなかった。他の誰でもない、自分自身が良いと思った本を、自身の体感とセットにして差し出すことが、大型書店にはできない個人書店・独立系書店である自分の役割なのだとさえ感じていた。しかしこの考えもいまは揺らいで、紹介する本に物語性を帯びさせることが本当に必要なのだろうか、と立ち止まって考えるようになった。と言いながら本投稿の冒頭で、なかなか本屋で見つからなくてようやく出会った、なんて物語をちゃっかり載せているのだけれど。

 

幼いころから、いわゆる「本の虫」ではなく、大人になってからも諸般の事情で本から離れていたと回顧する著者の、その本との距離感にまず共感し、惹かれた。だからこそ、そんな著者が自身の人生と共に添える本が何であるかが気になって、少しずつ、ゆっくりと、本書を読んで味わっていきたいと思っている。