小津夜景「ロゴスと巻貝」を読んでいて、心に突き刺さる言葉に出会った。
で、それからどうしたのかというと、ずっと風の音を聴いていた。
そしたら、なんか、世界が静かに変わっていった。出会う先々の風が、読書のことをいろいろと教えてくれたりして。読むときは考えるのではなく、貝に耳をあてるみたいにしなさいとか。読書の真価は実際に本を読んでいる時間よりも、むしろ読み終えてそれについて考えている長い時間のほうにあるんだよとか。その長い時間というのは、ひとがその本のことをすっかり忘れてしまうくらいの本当に長い時間なんだよとか。わたしは頭のなかにかろうじて残っていた本とふたたび向かい合った。
読んでいる時間よりも、読み終わった後にその言葉を思い浮かべる時間の方が圧倒的に長い。であれば、言葉を自由自在に思い浮かべ、行動を変えていくようにするためにこそ、一冊の本を、何度も、時間をかけてゆっくりと丁寧に読んでいくべきなのだと思った。