百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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他人との関係で自分がいる

じゃむパンの日/赤染晶子 palmbooks

 

まばゆい/僕のマリ 本屋lighthouse

 

年末に、これまでに出会った愛しい友人、知人のことを想う。素敵な人に、いろいろな人に少しずつ支えられながら、その結果として今の自分がいるということをかみしめている。

 

小学校に入学してから中学校を卒業するまでの9年間、毎日一緒に登下校した同級生は、自宅から徒歩1分の所に住んでいて、幼馴染という言葉がぴったりと合う。中学生の頃は、部活動まで一緒だったので、本当に毎朝、二人で自転車をこいで学校へ行った。どんなに仲が良くたって、毎日しゃべれる話題があるわけもなく、無言のまま20分くらい自転車で並走していた日もしょっちゅうあった。今思い返すとぞっとするけれど、それでも自然と一緒にいたのだから、まさにマンネリ夫婦も顔負けだ。

 

その彼と久しぶりに会うと必ず話題に出る思い出がある。彼は正月恒例の地域の凧揚げ大会で、参加賞でもらったスティックのりを、リップクリームと勘違いしてくちびるに塗った。冬になるとくちびるをなめて荒らす癖があった私とは違い、彼はリップクリームなど必要としない強靭なくちびるの持ち主だ。よりによってなぜ、と笑い合った。きっと、自分に縁のないものをもらって嬉しくなり、使ってみたかったのだろう。のりといえば赤いキャップの液状のりであり、スティックのりなんてハイカラなものを知らなかったのかもしれない。理由は何であれ、何年、何十年経っても語り草になるくらいの出来事だった。

 

赤染晶子「じゃむパンの日」は、新聞や文芸誌に寄稿されたテキストをまとめたエッセイ集だ。ノートを思わせるカバーのない表紙が質素で美しい。巻末には岸本佐知子との交換日記が収録されている。

 

著者目線での「なんだか憎めない面白い人」が登場する本書、特に好きなのが、「全員集合!」に登場するリーダーの男の子だ。受験勉強に励みながらも毎朝早く起きて仲間を起こし、ラジオ体操を仕切る。彼の苦労を周囲は知らないのだろうと思うと泣けてくる。その行いはきっと神様が見ていてくれるよ、と言いたくなった。

 

僕のマリ「まばゆい」では、中学校の吹奏楽部の先輩に恋をする「緘黙のファンファーレ」が秀逸で、何度も読み返している。彼は無口で、声を聞いたことがない。しかしそれでも十分だった。そんなミステリアスな彼のその後を知るオチに、大げさでなく鳥肌がたった。そんな特別な青春時代を過ごした彼女がうらやましい。

 

エッセイを読みながら、面白さに没頭する箇所には、必ず魅力的な「他人」が登場する。著者目線で描く彼・彼女に胸をつかれるのと同時に、同じように人生を彩ってくれる自分の周りの友人の存在に、気づくことができる。