この星で生きる理由 過去は新しく、未来はなつかしく/佐治晴夫 アノニマ・スタジオ
天文学と聞いて思い出すのは、大学で学びを放棄したこと。一般教養の授業であった「天文学」を、なんとなく興味があるからと受講したのだけれど、ほとんど頭に入ることがなかった。卒業して17年ほど経つ今、履修したかどうかも疑わしいほど記憶に残っていない状態であることに、唖然としている。
池澤夏樹「読書癖」に、「天文は楽し」というエッセイが収録されている。宇宙電波観測所所長の森本雅樹さんが愉快に話すテレビを観て感銘を受けた、というものだ。「論文は書けても、一般の人が読む優れた啓蒙書を作るのは、またべつの難しさがある。つまり、人柄が出る。」自らを『今さらゲヒン樹って改名するわけにいかない』(新しい星だと思って「超新星」と名付けられたから、実は古い星だと分ったからといって名前を変えるわけにはいかない、ということを説明するための例えとして)なんて言って卑下するけれど、決して下品なんかではなく、くだけた話もそれなりに優雅だと著者は言っている。天文の研究者は扱うもののスケールが大きく、それに比例するようにきっと人間の器も大きいのだろう、というのは私の偏見に過ぎないけれど、きっとそういう方なのだろうと思う。
天文に関するエッセイを挙げるなら佐治晴夫「この星で生きる理由」は外せない。イラストだけでなくテキストまでもが夜空を思わせる青フォントで、美しい。
月がなかったら、音楽はなかった?月の引力の影響を受けず地球の自転がいまより速く、強い風が常に吹き続ける、そんな世界を想像する。月と音楽。誰も結びつけないだろう二つのものを、天文学を起点に結び付けて、そこから知の泉が広がる。空にふわふわと浮かび、遠くを眺めていたら新しい星を見つけるような、そんな新しい発見をした時のような興奮が味わえるエッセイだ。
こうして天文に関するエッセイを読みながら、そのまま大学時代にタイムスリップして、もう一度天文学の講義を聴きたい、そう思った。