百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

MENU

まばゆい

まばゆい/僕のマリ lighthouse

 

社会人になりたての頃、施工現場の研修で約20キロやせた。自宅から現場まで近かったので毎日自転車で通勤した。現場ではロングスパンリフトを荷揚げをする職人に譲り、階段の昇り降りを繰り返した。14階建てのマンションだったから最大14層分の移動。きつかったけれど、つらくはなかった。主任に罵倒され、ヘルメット越しにぶたれた。これに関しては、身体はどうってことなかったけれど、精神的に参った。社会人としての自分の弱さを知った。夏場、汗で濡れた部分だけ作業着の色が濃くなり、お前だけ違う色の作業着を着ているのか、と茶化された。床コンクリート打設前のスラブ配筋上にケータイを落として所長を困らせた。吹付ウレタンを削るためのウレタンナイフで指を切り、現場をわずかに血で染めてしまった。何が言いたいのかと言うと、決して楽しいこと、有意義なことばかりではなかったし、反吐がでそうなくらいしんどいこともあったけれど、そんな日常に実はほんのちょっと楽しいこと、が混ざっているのだということ。

 

茶店で働く本書の著者は、何気ない日常に楽しさを見出す天才なのだと思う。彼女のように日常に潜む良さを見過ごすことなく捉えるアンテナがあったら、きっと毎日はもっと充実する。

 

こんな日々が、些細な日常が、一年後にはもうないのだと思うと、違う暮らしを送っているのだと想像すると、毎日がまぶしくて、かけがえなくて、煌いて見える。でも、いつまでも同じところにいるわけにはいかないから、もっと成長できると思うから、振り返らないで生きていくね。いままでもこれからも、ずっと強く生きてきたと、自分を褒めたい。生活が愛おしくて、涙が出そう。

 

いまがそう思える日常でないとしても、そう思おうとする姿勢が大事なのだ。