百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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死神の精度

死神の精度/伊坂幸太郎 文春文庫

 

自分のまわりにはいつも死神がいて、見えないところで自分を見守っている。悪い行いをすると、「あなたは命を失うにふさわしい人間ですよ」と認定され、死神界の上層部に報告される。そして1週間以内に何らかの理由で命を落とす。真摯に、丁寧に、誠実に生きていれば、「あれ、ひょっとしてこいつは死ぬべき人間じゃないんじゃないか」と認定され、絶命は「見送り」となる。そんな世界を想像して周囲をきょろきょろ見回しては、「誠実であれ、自分」と自分に言い聞かせる。

 

フィクションとはいえ、影響を受けると周囲の環境が変わって見える。「死神の精度」は、音楽(「ミュージック」と言う)が大好きな主人公の死神が、死を目前にした人間に近づき、本当に死ぬべき人間かどうかを調査するという話をまとめた短編集だ。冒頭の「死神の精度」に登場するクレーム処理係の藤木一恵に感情移入し、「きっといいことがあるから」と死神になったつもりで声を掛ける。