考える鉛筆/小日向京 アスペクト
鉛筆よりも、鉛筆削り。いま思い返しても、贅沢で、豊潤で、知的好奇心をかきたてる経験を日常的にしていたのだと実感する。
たぶん、小学校の入学祝的な理由だったのではないか。手でアームをぐりぐり回して削る手動鉛筆削り器を買ってもらい、持っていた。スヌーピーの柄が入ったブルーのそれは、いま思い出すと幼稚なデザインではあるのだけれど、鉛筆を削る時の手に伝わる快感は、なんとも言い表すことのできないものだ。以来、いまに至るまで、手のひらサイズのあの小さい鉛筆削りが好きではない。電動式など論外だ。自分で削っている実感が持てない。
いま、同様の手動式の鉛筆削り器を探すと、当時のそれとデザインがさほど変わらないことに驚く。大人でも使える素朴なものが、驚くほど少ない。その中で、カール事務機の「エンゼル5」に出会った。本書に載っている数ある鉛筆削り器のなかで、昔の自分が体感していた手のひらの快感を思い出させてくれたのがこれだ。この鉛筆削り器を使ってみたい。そしてペンばかりではなくもっと鉛筆を使おう。そんな鉛筆へのあこがれを強くしたのも、本書のおかげだ。