百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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CHRISTMAS DAY, BUCKS POND ROAD

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CHRISTMAS DAY, BUCKS POND ROAD/Tim Carpenter  The Ice Plant

 

大人になって初めて「写真集」を買ったのは、井の頭公園の南にある「book obscura」でだった。田村美葉著「東京の美しい本屋さん」で知って、SNSでその店主のあふれんばかりの写真集愛を目の当たりにし、行ってみようと思った。小さな店内にびっしりと並ぶ写真集のその「モノ言わぬ力」に気圧されながら、1冊を選んで手に取った。ゲリー・ヨハンソンの「Ehime」は愛媛県のモノクロの風景写真を集めたもので、言葉以外で表現することの謙虚さ(小声さ)と、それでも説得力がみなぎる様を感じた。

 

モノクロの写真集に興味を持った自分がその直後に手にしたのが、この本だ。ブルックリンを拠点に活動する写真家の写真集。ある冬の朝に散歩しながら撮影されたイリノイ州中部の田園風景のモノクロ写真からは、何も特別でない風景なのに、心を落ち着かせるおおらかな空気を感じる。隔てるものが何もない大地の向こうに、そびえ立つ樹木のその上に、さらに無限に風景が広がる様子を想像し、その無限の広がりを自分の心臓に重ね、自分も広く大きく!と呪文を唱えた。

 

ここには音は一切なく、静寂に満ちあふれている。積極的に情報を手にしようとしつつも、静寂を味わいつくすことができるという点で、風景写真集は唯一無二のツールだと思う。