百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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2023年11月10日

 

朝、駅のホームに停まっている電車に乗り、出発を待っていた。正面の車窓からはちょうど駅のロータリーが見える。腰に安全帯をつけた作業着姿の男性が、ロータリーのゴミ拾いをしているのが目に入った。ロータリーに面した大規模再開発の現場監督だろうか。こうしてひとり黙々と掃除をしている人の様子を見るといつも、誰にも見られず、気づかれないうちにそそくさと掃除してしまおうと慌てる、かつての自分の記憶がよみがえる。社会人になって初めて働いた工事現場事務所の階段の掃除だったり、前職の事務所前の掃除だったり。所長や同僚がやってきて「お、朝から偉いな」と気づかれるのが恥ずかしくて、「まだ来るなよ、来るなよ」と念じながらほうきを滑らせた。そうやって掃除をしている時の自分の身体にはいつも、さやわかで透明な風が吹いていた。