百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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人は他人に頼られて強くなる

夏みかんの午後/永井宏 信陽堂

 

雲ができるまで/永井宏 信陽堂

 

美術作家・永井宏の文章を読んでいると、じんわりと心にやってくるものがある。それは「人は他人に頼られることで強くなる」ということだ。小説であれ、エッセイであれ、登場する人物は皆、日々の暮らしに忙殺されながらも、他人からの要請を断ることができないでいる。というより、頼まれることで自分に価値があることを感じ、ほっとしているようにも見える。「夏みかんの午後」に登場するエリにしてもそう。「雲ができるまで」に登場するキリコにしてもそう。著者はどのような文体であっても、言葉を使って、人は自らやりたいことをやって生きがいを感じるのではなく(それもあるだろうけれど)、他人から必要とされることで、自分が「余人をもって代えがたい」存在であることを実感するのだということを伝えたかったのではないだろうか。

 

内田樹の本で読んだ記憶がある(どの本かは忘れてしまった)。「親は子どもにすねをかじられて初めて、自分にかじられるようなすねがあることを実感する」という言葉だ。その言葉を読んでビクッとした。うっとうしいなぁ、と感じながらも、頼られるくらい自分に信頼性があると気づき、酔うことができるのだ。うっとうしさ、わずらわしさは、自分が頼られるくらい大きな存在であることとセットなのだ。