百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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人を救うのは医療ではなく言葉

悲しみの秘義/若松英輔 ナナロク社

 

いのちを呼びさますもの/稲葉俊郎 アノニマ・スタジオ

 

「死の床にある人、絶望の底にある人を救うことができるのは、医療ではなくて言葉である。」この言葉に出会って、ああ、「いのちを呼びさますもの」がきっかけで知った医師・稲葉俊郎さんが言っていることも、そういうことだった、と思い出した。この言葉は、著者の若松英輔さんの言葉ではない。哲学者・池田晶子の著作「あたりまえなことばかり」を引用しながら、この言葉に出会うまでは、言葉に人生を変える力があることに気づいていなかったこと、そして、自分を照らす光は外からではなく内から射し込むのだということを思い知ったのだという。

 

言葉で人を癒すこと、それも含めて本来の医療だ、と稲葉俊郎さんは言っている。従来の病院という枠組みの中だけで医療を考える限り、そこからあふれてしまった人を救うことができない。病院に通う人だけを対象として治療することを「医療」と呼ぶのであれば、そういうことになろう。しかし、癒しを必要とする人は、病院に現に足を運ぶ人だけではない。理由があって病院に行くことができない人、一度「異常がありません」と言って返されてしまった人、医者に治療してもらうものとして症状を自覚していない人。さまざまな境遇の、しかし確かに困っている人に対して、分け隔てなく手を差し伸べることができるツールの一つが、言葉なのだと私は知った。