スーパーエッシャー展 ある特異な版画家の軌跡
数年前、学芸大学の古本屋さんで出会って、思わず手に取った。2006年にBunkamuraザ・ミュージアムで開かれた回顧展のカタログだ。クロス張りの装丁。タイトルを排除した表紙デザイン。そしてエイジング感。古本屋で本に出会い、買う醍醐味はこういうところになるのだと思った。
エッシャーのだまし絵は伊坂幸太郎の「ラッシュライフ」を見て知っていた。塔の階段を登り続けてももとの位置に戻るというありえない構造が、視覚的に表現されていた。ある人のある行動が他の人を動かし、それがまた次の人へ連鎖する。こうして自分の気づかないうちに自分が他人に、そして社会全体に影響を及ぼしている。「ラッシュライフ」が描く「影響の連鎖、循環」は、このリソグラフをモチーフにしているのか。小説をより楽しむことができた。
ありえない構造の建物。三次元ではありえない形の物体。一切の言葉のない、静寂が支配するリトグラフが、小さいけれど確実に聞こえる声で、何かを自分に訴えかけているように感じてビリビリと痺れる。