百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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私の生活改善運動

私の生活改善運動/安達茉莉子 三輪舎

 

これほど自分の毎日の暮らしに寄り添ったエッセイを、しばらく読んでないなぁと思った。たいていのエッセイは、自分にない考え方に刺激を受けることはあっても、「そうそう、私もそう思う」と共感することはそれほど多くない。けれど本書は強く、共感をもたらしてくれる。活版印刷のイベントで一度だけお会いしたことがある、という著者に対する親近感みたいなものがそうさせているのかもしれないけれど、きっと著者自身の「本心を隠すことなくさらけ出す」という姿勢をひしひしと感じるから、という理由が一番大きいと思っている。それがエッセイの一番のうまみ成分だ。

 

なんでもない毎日を楽しくする方法はたくさんある。特別な、おしゃれなことをしていなくても、全く問題ない。「これは自分なりのこだわりだ」と思っていることを、こだわり抜くこと。むげにしないこと。そして「こうしている時が快適だ」という時間を確保することをおろそかにしないこと。そうして暮らしが豊かになるのだということを、本書から学んだ。

 

 私にとって、その「熱いコーヒー」とは、時間の貧困のなかで淹れたコーヒーだったように思う。休みの日の朝の光のなか、沸かしたお湯を細く注いで、膨らんでいく豆を眺める。なぜか泣きそうだった。タイムイズマネー。いや、タイムイズライフ。忙しい日々のなかで、それくらい時間に飢えていたのだ。ゆっくりと流れる時間は、自由の象徴だった。

 食は時間を食うと思っていたが、その考えかたこそが、私から時間を奪っていた。食は、与えることなのだ。自分に、生きた時間を。