百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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いのちの居場所

いのちの居場所/稲葉俊郎 扶桑社

 

自分が生きている身のまわりや、自分の命、身体について、根源的な視点で考える本を、無意識のうちに欲していたように思う。ウイルスのまん延に気が滅入り、どうにかこの苦しい状況に打ち勝とうと思っていたけれど、ウイルスからしたら人間の方が新参者であり、これまでは距離を保ちながら共存していた、その均衡がいま少し乱れている状況だと捉えると、見方が変わってくる。適正な距離を保つためにどうしたら良いのか、そのことを考える、このような本を、たぶん自分は待っていたのだと思う。手にして、美しい表紙を眺め、ページをぱらぱらめくり、ひさしぶりの自分にとっての大当たりな本だと思った。本棚にあるまだ読み終わっていないたくさんの本や、これから手にしたい新刊本も、ひとまず頭の片隅に置いておいて、今日からしばらくはこの本だけをじっくり読み、味わいたい。

 

医師である稲葉俊郎氏の新刊は、医療という枠を超えて命のあるべき姿を考える本。第1章の、ウイルスと人間とのスケール差は、人間と地球とのそれに匹敵するという事実にまず驚く。ウイルスが人間に影響を与えることと、人間が地球全体に影響を与えることは同スケールなのだ。とすると、私たち人間が地球という自然にすでに与えている影響を、もっと注視しなければならない。