あまり読める気がしないけれど、読める人だと思われたい。これを読んで知恵をつけている人だと思われたい。そんな気持ちで背伸びして手にした本はたいてい、読むのに時間がかかる。もっと正確に言うと、読み始めるのに時間がかかる。だけど、読み始めると、その奥深さにじんわりと心の奥底の知的好奇心が刺激され、さらに読まなければ、と気が急いてくる。
そんな体験、きっと誰にでもあるだろう。私にその体験をもたらしたのが、本書だ。建築家の伊藤豊雄と対談しているちくま文庫「建築の大転換」で著者の中沢新一を知った。東京各地の太古からの成り立ち、地名の変遷が、普段気に留めることのないくらい、とてつもなく大きなスケールで語られている。
例えば、今は都心である新宿が昔、原野であったころの伝説。室町時代に今の新宿にたどり着いた鈴木九郎が、大富豪になったという話。こうした伝説から東京の歴史を学ぶのも面白い。ただ記憶していくのではなく、「なぜ」「どのように」と疑問がどんどん枝分かれして、その疑問を一つづつ解明していくプロセスこそが、大人の学びなのだろう。