ダンス・イン・ザ・ファーム/中村明珍 ミシマ社
バンドマンが心機一転、島へ移住して農業を行う。全然違う仕事へのシフトと表面的には見えるけれど、きっと彼の頭の中ではバンドも移住も地続きなのだろうと私は想像する。私自身、そうであるように。
設計事務所勤務ののち、自営で本屋を始めた。「ずいぶん思い切ったね」「勇気が要ったでしょう」そんな言葉をかけてもらうこともあった。その度に感じるのは、他人が言うほど思い切ってもいないし、勇気を振り絞った感もない。扱うものは建築から本へと変わったけれど、まったく違う畑に飛び込んだという感覚もあまりない。建築企画も、本屋も、扱うものを通してクライアントに豊かな暮らしを提供する。その芯となる想いは変わらない。だからきっと彼も。
ちょっと特殊な、しかし不思議でもなんでもない彼の人生を綴ったエッセイは昨日、これまた本を愛する農家の方に手に取っていただいた。こうしてその人だけのかけがえのない人生が循環していく。