百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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モチーフは杜子春

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本を包むオリジナルの包み紙が完成しました。4月から随時、定期便や選書便、ウェブショップでのお買い物の際に本を包んでお贈りいたします。

 

※つくってくれた作家さんのことと、紙選びのこと

sarusuberi-to-taiyo.hatenablog.jp

 

本日は絵柄の話。

 

モチーフはずばり「杜子春」。芥川龍之介の短編小説で、中国で古代から伝わる小説を童話化したものです。

 

 

杜子春との出会い、と言うと大げさですが、私の記憶に残っている最初の出来事は、小学生の時のこと。学校の脇に「農業構造改善センター」というややこしい名前の施設があって、そこで児童演劇を観るレクリエーションがありました。その演劇の題目が「杜子春」であったことを、その名前だけなんとなく憶えていました。内容は全然憶えていないのに(小学生の時のことなので、記憶が改ざんされているかもしれません。違う学年が観た演劇の題目だったりするのかも)。以来、頭の中に「杜子春」という名前のストーリーがあるということだけ刻まれ続けてきました。

 

時が経ち、社会人になってから、ふと自分の頭の抽斗の中に入っていた言葉を思い出し、調べたら、芥川龍之介の小説だったので、読んでみました。するとどういうことか、児童演劇の記憶こそ蘇らなかったものの、その物語が指し示すメッセージのようなものが突き刺さってきました。

 

読んだことのない方のために、おおざっぱに紹介すると・・・

 

杜子春という男が金を失って路頭に迷っていたら、仙人が現れてお金をくれた。それで杜子春はお金持ちになったが、豪遊してしまって数年でお金は尽き、また貧乏になった。困っているとまた仙人が現れお金をくれるが、またすぐ使い果たしてしまう。3度目に現れた仙人に対して、お金と周囲の人間に愛想が尽きたので修行させてほしいと乞い、修行の旅に出る。修行で仙人は杜子春に、「私が留守にする間どんなことがあっても口をきいてはいけない」と言う。杜子春は虎や蛇、大男が現れてからかわれてもその教えを守り口をつぐむが、閻魔大王の前に死んだ父母が現れ、鞭で打たれる父母を見て、我慢できず一声叫んでしまう。そこで仙人が帰ってきて、お前は仙人にはなれないと言うが、杜子春はそれでも良いと言い、つつましく暮らすことを誓う。

 
・・・という話。このストーリーから私は、いまの時代の商売においても重要であろうことを大きく3つ学んだ気がしました。
 
①有り金をすぐ使い果たすべきではない
②自身に降りかかる困難に、ひたすら耐える忍耐力が必要である
③本当に大切なことに気づいたら、諦めることも重要である
 
意外と③が最も重要なのだと思います。まずは言いつけを守り耐えることが前提。三日坊主は論外。けれど、その掟を守り続ける意味が本当にあるかと考えた時にそうじゃないと気づいたのなら、自分の判断を信じて諦めなければならない。そういうことなのだと思います。耐え続けることを否定はしませんが、何があってもそうし続ける、というのは、思考停止にもなりかねません。
 
この物語が指し示すメッセージが、自分のこれからの道を照らす灯になりそうな気がしたので、本を包む包み紙にその灯を暗示させたくなり、モチーフにしました。久奈屋さんにモチーフを提示したら、杜子春をじっくり読んでくださり、そこからイメージを膨らませて素敵な絵柄をつくってくださいました。
 
モチーフと一緒に、もう一つ注文をしました。それは、屋号など直接自分を指し示すものを描かないでほしいということ。一般的に和菓子屋さんなどの包み紙はそこに店名や住所、電話番号などの情報が書かれています。昔はホームページがないので、お客さんは開いた包み紙からプロフィール情報を知って例えば予約の電話をする、といったこともしていたでしょう。包み紙に、そのお店の看板としての威信を込めているのだと思います。
 
私は、そういう「屋号の宣伝」的な使い方はしたくなかった。「これが『百日紅と太陽』の包み紙だ」という主張をあまりしたくなかったんです。自分の名前を知ってくれたうえで本を買ってくださる方に対しては、名前や連絡先の明記も必要ないでしょうし。だから、屋号などの文字はもちろん、例えばサルスベリの木だとか、太陽だとか、そういう絵柄もありません。さらに、杜子春をモチーフにしながら、人間も(杜子春も仙人も)、杜子春の口を開こうとする妖怪も登場しません。何も知らない人が見たら「これは何だろう?」と不思議に思うような絵柄。もしかしたら100人に一人くらい、「あれ、これ杜子春じゃないか?峨眉山に松、杜子春を襲う風や雷」と気づくかもしれない程度の絵柄。さらにそのうちの100人に一人くらいが、そこから商売に対するメッセージを読み取って、「長く困難に耐えながらも、ここぞという時には潔く諦められるような商売を目指してるんだな、この男は」と感じてもらえたら、もう何も言うことはありません。隠すことでもないのでここで全て言ってしまいますが・・・。
 

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繰り返し言います。つくった最初だけ興奮して大事に使うのだけれど、数年とかで飽きてしまっていつの間にかなくなっている、なんてことは絶対にしたくありませんので。自分の商売の道を照らす灯たる包み紙。長く、ずっと使い続けていこうと思います。