震えたのは/岩崎航 ナナロク社
病床にいたときを思い出す。自分は割と楽観的な方だと思っていたけれど、それでも「容体が悪くなったらどうしよう」という不安はあった。先のことが分からないという恐怖。それは、不安定な状況を体験しなければ気づけないことなのかもしれない。
本書は、三歳の頃に「筋ジストロフィー」という、全身の筋肉が徐々に衰えていく難病を抱えることになった岩崎航による第二詩集。病に苦悩し、一時は自殺することさえ考えたという彼は、悲しむだけ悲しんで死ぬのは嫌だと気づいて思いとどまり、「病をふくめたそのままの姿」で生きようと思い定めた。彼の詩は、日常の、健常者(その言葉が適切か分からないけれど)では見過ごしてしまいがちなことさえも捉え、その心の震えを言葉に変換したものだ。
この詩を読むことを通して、五体満足だったら気づき得なかった視点、周囲の環境への感謝の気持ち、自分が生きるための推進力の存在に、気づけるのかもしれない。自分の1週間程度の入院と難病とを一緒にするな、と言われそうだが、わたしもそれに気づく体験ができたという点では、幸福だった。