百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

MENU

ガウディの伝言

f:id:bibbidi-bobbidi-do:20210818160122j:plain

ガウディの伝言/外尾悦郎 光文社新書

 

好きでよく行くカフェの店員さんが大学卒業を機にそのカフェのアルバイトも卒業すると聞いたのが、2年くらい前か。建築を勉強し、就職に向けて努力していた彼女と、十数年前に同じく四苦八苦していた自分とを重ねる。そんな彼女に、何か自分の手持ちで「頑張れ」という気持ちを伝えられないだろうか。その想いから差し出したのが、この本だった。直接渡すことができなかったので、こういう本があるよという紹介で終わってしまったのだけれど。

 

職人としてサグラ・ダファミリアをつくる唯一の日本人彫刻家、外尾悦郎さんの視点でガウディのサグラダ・ファミリアへの想いを見つめる。職人に対しては烈火のごとく怒った気性の荒い性格であったこと。図面は申請のために仕方なくつくっていた程度の位置づけに過ぎず、職人とのコミュニケーションはもっぱら立体模型を重用していたこと。爆弾を持った若者の像の爆弾の持ち方に、その若者の繊細な葛藤を表現したのではないかと思われること。路面電車にひかれて搬送されるとき、その身なりの貧しさから4台のタクシーが乗車拒否したという逸話が残されていること。など、生々しいくらいのガウディの人間らしさが語られている。「明日はもっと良いものをつくろう」彼のこの言葉こそ、いまの自分への「昨日よりも今日、今日よりも明日。常に成長し続けよ」というメッセージだと思う。

 

新しく社会人になる彼女に、私はこの本で何を伝えたかったのだろう。いま思い返すと少し恥ずかしくもあるのだけれど、時間をかけてよいものをつくろうとするガウディの思考と、その思考を汲んでがむしゃらに石を彫り続ける著者の思考を、今後の参考にしてほしいと思ったんだった。とにかく石を彫りたいの一心でスペインに渡り、たまたま来たバルセロナ行きの電車に飛び乗った(もしその時の電車がマドリード行きだったらまた人生は変わっていたかも)という著者の人生もなかなか刺激的で興味深い。