お笑い芸人、ピースの又吉さんが無類の読書家であると知ったのは、いつだっただろうか。それから、突出した何かがある人は強いということが分かった。そういうものを持たない自分を卑下するつもりはない。大事なのは、「これは自分の独自性かもしれない」と思えるそのひとかけらを、素直に、正直に、発信することなのだと思う。自分が心から良いと思えるものを、自分の本心に従って、ありのままを他人にそっと差し出す。そういう姿勢は、読書好きを隠さず強みにし、小説やエッセイを実際に書く「作家」としての顔ももつ彼から刺激を受けたのだし、私が他人に本を紹介するスタンスも、もとはと言えば彼のもつ「強さ」を真似したいという気持ちからスタートしたのかもしれない。
そんな彼が上京してから経験した東京とその景色、それにまつわるストーリーが滑らかな文体でつづられている。彼の本当を知るには、うってつけのエッセイだと思う。
特に私が大好きな言葉が、仙川の描写だ。仕事でよく訪れる仙川の、緑豊かな景色と匂いの記憶が、彼のそれと重なる。
吉祥寺で遊んだ後はバイクに二人乗りして、変なことを言い合いながら、仙川の「湯けむりの里」という大きな銭湯に行った。秋の夜を走り抜けながら澄んだ空気の薫りが強くなったら、そこが仙川だ。