パン屋の手紙 往復書簡でたどる設計依頼から建物完成まで/中村好文・神幸紀 筑摩書房
小学生くらいの頃はパン全般が嫌いだった。しかしいまは大好きだ。自宅の近くに美味しいパン屋さんがあって、そこで、今日は何にしようか、いややはり定番のクリームパンか、と選ぶのが楽しい。そんなこと、小学生の頃の自分が知ったら驚くだろう。
2年前まで住んでいた妙典の駅前にある、チェーン店のパン屋も捨てがたい。今日、久しぶりに行ったら新しい商品がたくさんあって、柄にもなく選ぶのに手間取った。いつもというわけにはいかないけれど、ふと食べたくなってふらっと立ち寄りたくなるのが、パン屋さんだ。
建築家の中村好文が設計したパン屋の工房ができるまでの、設計者とクライアントとの往復書簡をまとめたのが本書。クライアントは要望を素直に伝え、設計者はそれを丁寧にくみ取る。価値観のズレが大きな溝にならないように、慎重に相手を想いながら、完成するパン小屋が少しでも良い建物になるように粉骨砕身する。そうやってできたパン小屋でつくられた素朴なパンを、そのパン小屋ができるまでのストーリー込みで味わえたら、いいだろうなぁと思う。