京都で考えた/吉田篤弘 ミシマ社
なめらかに書く。流れるように書いて、流れるように読む。そんなテキストに憧れる。
作家の吉田篤弘さんは、そんな流れるようなエッセイを書きたくて本書で「流れの邪魔になりかねない章題や見出しといったものをページの地中に埋め込むことにしました」。目次はあるのだけれど、本文の中に章題を書かず、代わりにちょっとした区切りとしてアスタリスクを入れる。ひとかたまりの文章の内容を総括する章題を気にせず、淡々と読み進められるこのアイデア、彼は京都を歩きながら思いついたのだという。このようなちょっとした、しかし独創的なアイデアはきっと、さてどうしようと机にかじりついてようやく思い浮かぶものではなく、街を歩いて新鮮な空気を吸っているときにふと、頭に浮かぶものなのだろう。
新しいアイデアに出会うための場。京都の街をそのように捉えたことがなかったから、本書を読んだ今更、修学旅行で訪れた京都をまた、歩いてまわりたくなった。あの時は友達と一緒に自由に行動できるのが嬉しくて、京都の街を集中して味わうことをたぶん怠っていた、と後悔している。