百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

MENU

留守中の猫は

ねこはるすばん/町田尚子 ほるぷ出版

 

Night Cat/絵:リサ&ヨハンナ・ラーソン 文:ジェームス・ブレーク 訳:角田光代 実業之日本社

 

猫を飼っている。保護猫出身の、茶白だ。社会人になって、独り暮らしをしていたときは、自分が猫を飼うなんて想像もしていなかっただけに、今の暮らしがちょっとした夢のようである。こういうときに親馬鹿が発動するのって、本当なのだ。

 

とはいえ、一日中ずっと一緒にいられるわけではない。毎朝、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出る。「いってくるね」という挨拶に、寂しさを感じているのかいないのか、じっとこちらを見つめてくる。なるべく早く帰ってくるから、と約束をして、なんとか玄関を開ける。

 

しかし、だ。猫には猫の世界があって、それは自分たち人間が全く知り得ない、深くて広い世界なのかもしれない。日中、寂しくしていないだろうか、という人間側の想いは杞憂で、向こうは何とも思っていなかったりして。むしろ、これで自由だ、せいせいするぞ、と独り(一匹)を謳歌していたりして。

 

町田尚子「ねこはるすばん」は、人間の知らない猫の世界を描いた傑作だと思っている。喫茶店でコーヒーを飲み、本屋で本の角を顔にこすり、バッティングセンターで汗を流し、銭湯でひとやすみ。そんな世界を誰が見ているだろうか。そして、「そんなことはありえない」と誰が証明できるだろうか。「ねこの るすばん、いそがしい。」そうであるならそれでいいのだけれど。

 

リサ・ラーソンが娘のヨハンナ・ラーソンと一緒に描いた絵が魅力的の「Night Cat」も、人間が見ていない時の猫を描いている。夜、飼い主が寝静まったころ、ちいさなドアをくぐりぬけ、冒険が始まる。にぎやかなバンド、いとしいあの子、にこにこがおのお月様。人がいない夜の街は、猫の社交場になっている。

 

私が見ている、もしくは認識している世界は、なにか大いなるものが作り上げた額縁によって制限された景色の、さらにそのなかの一部なのかもしれない。猫の世界を想像しながら、そんなことを考えた。見えている世界、認識している世界が額縁によって制限されているということを、冷静に認めることができてこそ成熟した大人の人間だ。そのことを絵本から教わるなんて思ってもいなかった。