
内田樹/老いのレッスン 大和書房
老いというものを、自分には関係ない話(もしくは遠い未来の話)ととらえていた自分を、改めるようになったのは、内田樹さんの本を読んでからのことだった。ずいぶん先かもしれないけれど、(すぐに死なない限りは)いずれやってくる、という当事者意識を持つことの重要性を、実感した。
本書「老いのレッスン」は、若い女性編集者からの質問に応じる形で「老いとは」「親とは」「ほんとうの友だちとは」「死者の供養とは」などの問いに答えを出すというもの。迷惑をかける高齢者を「老害」と言って罵るのも(だから私はこの単語が大嫌いである)、文脈の切り取りが多少あるだろうにせよ、集団自決すべきといった言葉が一定程度の影響力をもつ学者の口から出るということも、すべては「自分も遠からず当事者になるはずである(もしくはなるかもしれない)」という想像ができていない証拠であるという主張に、私は同意する。「そうなるかもしれない自分」への想像力がもしあれば、他者にそのような言葉を浴びせることは決してできないはずである。それは自分自身に鋭い言葉の刃物を突き付けることにもなるからだ。