
特に気にせず朝家を出て、夕方職場を出たらけっこう雨が降っていた。自宅の最寄り駅に着いた時には雨がさらに強くなっていた。当然傘は持っていない。
目のまえで信号が赤になった大きな交差点で、青になるのをじっと待っていたところ、すぐ隣に人の気配を感じた。振りむいたら、男性が立っていて、傘を差し出してくれていた。本当に申し訳ないことに、親切だと気づくのに数秒を要した。「あ、ありがとうございます。すみません、傘忘れちゃって」なんて言うのが精いっぱい。信号が青になるまでの数十秒間、その方の傘に守られながら、それ以上の言葉を口にできなかった。じんわりと優しさがしみてきて、しびれた。