百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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文にあたる

文にあたる/牟田都子 亜紀書房

 

平日は法科大学院で事務の仕事をしている。主に課外講座の運営をする事務室で、今月、司法試験と同様の日程で行う模擬試験がある。多くの受講者が集う人気講座だ。

 

問題文とその解説を、OBである実務法曹の方々につくっていただき、それを事務室でチェックする。誤字脱字はないか、全角半角が統一されているかといった単純なものから、引用している条数がずれていないか、参考文献の出典が間違えていないか、といった内容に関するものまで、ひととおり確かめる。そしてこの地味とも言える作業が、割と得意で、好きであることに、作業をしながら気づいた。得意だなんて得意面して言ったら「それほどでもないでしょ」と突っ込まれそうだけれど。さっと読んだら見落としてしまいがちな間違いを、見つけ出すのが、どちらかというと上手な方だと思っている。

 

書籍が生まれるまでの間に「校正」という作業がある。本に書かれた文章を普通に読む限り、その校正者の作業は目に見えない。気づかない、と言ってもよい。しかし、気づかないということは言い換えれば、誤字脱字のない自然な文章を、そのまま読んでいるとも言える。それはつまり、校正者という役割が充分に機能している証でもある。

 

本書は、校正者である著者による、校正作業にフォーカスをあてた本だ。ゲラと呼ばれる原稿を丁寧に読み、丹念に調べ、チェックをする。著者でさえ知らなかった誤用を指摘しなければならないこともあれば、一般的に間違いだと思っても、著者の強い想いでその言葉が選ばれていて、(原文ママ)で通すこともある。ただの機械的な間違い探しではない人間的な作業であることを知り、その奥深さに息をのんだ。