百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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「大切なことは、続けること」

継続するコツ/坂口恭平 祥伝社

土になる/坂口恭平 文藝春秋

 

「大切なことは、続けること」この言葉を強く覚えているのは、意外にも、昔のTHE YELLOW MONKEYのドキュメンタリー映像でだ。ドラムの菊地英二が言っていたと記憶している。解散する前の言葉だったから、「無責任なこと言っちゃって」と当時は少し思ったけれど、今はその言葉の重さが伝わってくる。続けてくれていることに、心から感謝している。

 

作家、音楽家、画家、建築家、など様々な顔を持つ坂口恭平氏の最新著作「継続するコツ」はまさに、自分に向けて書かれた本なのではないかと、知人の紹介を見て思った。私はほんのちょっとだけ他人より「何かを続けること」が得意だと思っている。しかしその「ほんのちょっと」を「揺るぎない自信」に変える必要があるんじゃないかと心の中でずっと思っていて、それを文字にしてくれている本だった。100点のクオリティを目指さない。ただ書きたいから、書くことが楽しくて仕方ないから、書く。それ以外に書く理由なんていらないでしょ、とあっけらかんと言っているようで、すっきりした。その動機だけで充分なんだと思えた。

 

ただ書けたらいいだけです。でもその代わり、たいして良い文章は書けません。時々、坂口さんの文章は楽しくていいですね、と何も知らずに褒めてくれる人がいますが、読書家で僕を褒める人はほとんどいないです。だから、褒めてくれる人に対してありがたいなとは思いつつ、あ、素人なんだろうなあ、本が読めない人なのかもしれないなあ、くらいに思ってます。褒めてくれているのに、その人を貶しているようで申し訳ないと思うこともありますが、僕の本音はそんな感じです。読書家の方で、僕の本をじっくり読んでいる人はほとんど見たことがないです。何も考えずに、適当に、思いつくままただ馬鹿みたいに書き続けてますから、熟読して何か感動する、みたいな経験はできないですから、まあ、駄作ばかりなので、それも当然だと思ってます。

 で、それでいいんです。そのことで、僕は自分のことをダメな人間だと貶すことをしないんですね。

 

ここまで自分の書く文章を駄作だと貶す人は見たことがない。私は心のどこかで、「出版物はインターネットにまん延している記事とは違い、有料で、出版社というフィルターを通過して世に出ているものなので、知的価値がある。よって、その知的価値を求める読者の期待に応えうる、精度がなければならない」と思っていた。しかしそれに対して本書で著者は「自分がただ楽しいから、駄作だけど書いている」と断言する。この潔さは、面白くなさ、論理構成のばらばらさ、稚拙さを正当化するわけではないけれど、自分が文書を書くうえでの動機付けとして参考になると思った。

 

その彼の文章を余すことなく堪能できるのが、「土になる」だ。本書を買って読んだのは「継続するコツ」を読む前だったので、「長々と、淡々と書かれていて、正直退屈だなあ」と思っていた。毎日決まって「朝から原稿」を書いている。原稿ってなんだよ、そんなに毎日書くことがあるのか?なんてひねくれて見ていたのだけれど、その正体が、「継続するコツ」を読んで分かった。原稿を書く。畑をつくる。人と会う。それぞれ、自身に起きた出来事をありのまま脚色せずに書く。退屈であっても、それがエッセイであり、彼の「本当」なのだと気づいた瞬間、一冊の本がものすごく愛おしく思えた。目次もまえがきもなく、数字の章立てのみで1から36まで、ゆっくりと一日一日が過ぎていく。

 

このブログで日記兼ミニエッセイを毎日書こうと決意し、始めたのが昨年8月。まだ1年とちょっと。まだまだ始まったばかりだと思っている。私も、誰にやれと言われたわけでなく、ただ書きたいから書いている。「いいよ、書かなくても」と言われたって書く。その気持ちだけは、持ち続けたい。