百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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砂漠

砂漠/伊坂幸太郎 実業之日本社

 

大学は、自分から進んで学ぶところである。だから勉強が嫌いではやっていけないし、そもそも入学するのが難しい。仮に何かの手違いで入学できたとしても、卒業するのはもっと難しい。勉強が好きで、高校までの勉強では物足りなくて、もっと学びたいという変わった高校生だけが目指す場所だ。高校2年くらいまでの私はそう思っていた。だから「何かの手違いで」大学に進学することになった時、これは必死に勉強しなければまずい、と焦った。しかし、社会人になった今、大学生活を振り返ると、講義や課題の思い出よりも、サークル仲間と一緒に過ごした思い出の方が鮮明に、強く記憶に残っている。この有意義な時間を得るために大学に入ったのかもしれない、と勉強不足の自分をいま、正当化する。青臭い、ちょっと冷静には思い出したくない、記憶だ。

 

でも楽しかった、そんな記憶が目の前に広がるのが伊坂幸太郎「砂漠」だ。大学生の北村の周りには、鳥井、南、西島、東堂という仲間がいる。彼ら、彼女らとマージャンをしたり、事件を解決したりする。何気ない日常生活が淡々と進む中に、ほんのちょっとの奇跡が潜んでいる。

 

西嶋の名言「平和を願って平和(ピンフ)を」を、今の国際社会の平和と重ねて受け止めて読む人は、きっと私だけではないだろう。