百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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言葉にして、書くということ

雲ができるまで/永井宏 信陽堂

 

炉辺の風おと/梨木香歩 毎日新聞出版

 

エッセイが好きで、本棚に並んでいる本を分類していくと、エッセイが多いことに気づく。昔はむしろあまり好きではなかった。書き手の自分アピールが強くてツンと来ることが多かったからだ。しかし最近はそんな気持ちも薄まり、純粋に書き手の素直な人となりを味わいたいと思うようになった。

 

それは自分自身「書きたい」という想いともつながる。あまり自分を他人に知ってほしいという欲が強い方だとは思っていないけれど、日々の中で感じたこと、考えたことを、言葉にして、書き連ねたいという欲は常にある。こういうエッセイを書けたらいいなぁ、満足できるかなぁ、と思えるエッセイ集は、今の自分にはこの2冊。「雲ができるまで」と「炉辺の風おと」だ。

 

「雲ができるまで」は美術作家の永井宏によるエッセイ集。葉山のギャラリーを主な舞台として、日常の何気ない風景が切り取られている。針金で小さなエッフェル塔をつくるスタッフの話(エッフェル)と、オーナーにディナーショーに誘われ困惑する話(シャンソン)が特に好きだ。特別な、ハレのストーリーをこれみよがしに語っているのとは違って、なんでもない出来事が淡々と綴られる。それは「炉辺の風おと」も同じだ。山小屋を購入した鳥好きの著者が、鳥のさえずりを聞きながら自然と過ごす日常。

 

エッセイを通して、特別なことは起こらなくても、何か胸をくすぐるような体験を、淡々と書き連ねることが、いまの自分がやり続けたいことだと思っている。難しいことは考えず、とにかく書けばいいんだ。そうやって背中を押してくれたのが、この2冊だ。