百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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その農地、私が買います

その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱/ミシマ社

 

農地を、買う。たいていの人にとっては、まるで縁のない出来事だろう。農地が多い埼玉の田舎に育ち、田んぼや畑が一面に広がる風景を当たり前と感じていた私も、土地を買うとなると別次元のことのように感じる。想像したこともない。先祖代々、持っている土地を相続して、作物をつくる。世代が変わって農業をやらなくなれば、特に使いみちもなく放置する。そんなイメージしかない。宅地を買って住宅を建てる人の姿は社会人になってたくさん見るようになったのに。

 

大学時代。インターンシップで訪れた大阪・箕面市。そこでまちづくりNPOに混ざって勉強していた頃、よくラジオで聴いていたのがチャットモンチーの「ハナノユメ」だった。メロディの美しさに心奪われた。女の子3人でエッジの効いた音を奏でているのが当時すごく新鮮で、箕面での出来事と音楽がセットで記憶に刻み込まれている。

 

「その農地、私が買います」は、そのチャットモンチーの元ドラマー、高橋久美子のエッセイ。バンドウーマンから農地購入。なかなか結び付かない組み合わせだけれど、そんな生き方も当然ある。「これまでこうやって仕事をしてきたから、こうしなければならない」といった常識は一旦脇へ置いておいて、その気になれば空だって飛べる、鳥になったような気持で読んでみると、きっと心が大きくなって、遠くまで羽ばたけるんじゃないかと思える。