百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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いのちを呼びさますもの

いのちを呼びさますもの  ひとのこころとからだ/稲葉俊郎 アノニマ・スタジオ

 

一度「いのちはのちのいのちへ」と一緒に紹介した(※)が、再掲。

 

妙典の「蔵の本屋」で、子どもへの絵本読み聞かせ&大人のビブリオトークイベントがあり、参加した。私はビブリオトークの発表者として、「いまここで読みたい本」というテーマから本書を選び、発表した。いま、ここで読みたい本だと心から思ったからだ。

 

著者の稲葉俊郎氏は、医者である。ただ、病院で患者の診察をして、治療をする、という一般的な医者のイメージとはずいぶん違った印象の方だ。彼自身、このように言っている。

 

私自身も既知の職業ではないものを追い求め続けている。一般的な「病院」というイメージや「医師」というイメージの枠組みの中で生き続けることが、私にはどうも窮屈に思えて仕方がないのだ。
私が常に考え続けている「医療の本質」というものは、「病院」や「医師」という言葉の中だけに収まるものではない。人間が持つ体や心、魂や命、そして人間だけではなく生命そのものに対しての態度や向き合い方、考え方の中にこそあるのではないかと考えている。

 

私がこの本に強くひかれたのは、昨年1月に脳梗塞を患い、1週間ほど入院をした際、病床で寝ながら読んだから。そこには、「自分の身体に敬意を払うこと」の大事さが書かれていた。


人間の体はすごいもので、例えば脳の血管の一部が裂けて血液が流れなくなったりすると、時間をかけてその詰まった部分を飛び越えるようにして新しい血管ができたりするのだと、主治医から聞いた。そんな神秘的な出来事が体内で起きていると知り、以降私は、自分の身体を尊敬しようと思うようになった。その想いに至ったのはこの本のおかげだ。


本書のキーワードは「身体への敬意」ともうひとつ、「調和」という言葉だ。「調和」というのは、戦わずに、共存する方法を模索する、ということ。現代医学が「病をやっつける。そうすれば元気になる」という順序で考えるのに対して、伝統医療は、「まず元気になりましょう、そうすれば病はなくなります」というように、病を戦う相手とみなすのではなく、調和が崩れた状態からもとの調和をとり戻す、と考える。

 

これは、コロナ禍に対する姿勢にも言えると思う。コロナウイルスを「やっつけるべき敵」とむやみに敵対視すると、どうしても乱暴になる。思い通りに行かない時にムカムカしてくる。その乱暴の究極の姿が戦争なのかもしれない。これに対して、調和すべきだという程度に物事を考えれば、不調のときにもとの状態に戻るにはどうしたら良いかを穏やかに検討することができる。ギスギスした気分になりがちないまだからこそ、「戦うのではなく調和する」ことを説く本書から、学ぶことは大きい。

 

(※)

sarusuberi-to-taiyo.hatenablog.jp