百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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ほんのちょっと当事者

ほんのちょっと当事者/青山ゆみこ ミシマ社

 

「当事者意識を持て」誰からともなくよく言われたのを覚えている。それはたいてい、目の前の対象に積極的に関心を示さないことへの叱責という意味をもっていた。だからそう言われないように、自分から積極的に仕事に取り組む、いまやるべきことは何かを自分で考える、といったことが大切だと思うようになった。ただ大事だということは分かる一方、「当事者」であれという言葉がどこか強迫観念のように響いて、身体が圧迫されるような苦しさを感じるのもまた事実なのだ。

 

「ほんのちょっと当事者」コミカルな表紙のイラストと、ちょっとドキッとするタイトルが目をひく。保育園に子供を預けられないから働きたくても働けない、そんな女性が社会にキバを向けているのを見て、自分には関係ない、とつっぱねるのは簡単だ。しかし、もし自分が当事者だったら、とか、ほんのちょっとの境遇の違いで自分も当事者になる可能性があった、とか、そういうことに想像力を膨らませることが大切なのであって、自分には関係ない、とするのは、想像するという知性の行使の放棄に他ならないのだと、最近気づいた。本書の著者のように、例えば自己破産の一歩手前までいったとか、思いがけず社会的弱者になる可能性を、誰だって秘めている。もちろん自分も、「自分もそうなるかもしれない」と気づけることって、大事なんだな。