つくるをひらく/光嶋裕介 ミシマ社
職人のような人間を、目指していた。手に職をもっていて、その分野ではスペシャリスト。人をあっといわせる技術で価値を生み出す。それこそが仕事だと思っていた。それがだんだん、手に職はなくて良いから、人並み外れた何かがなくても良いから、広範囲に関心を持って複数のことを並行して行えるような人間になりたい、と思うようになった。資格や専門技能があるわけではないので、気をつけなければ「ただの人」なのだけれど、これをつくりたい、と強く思うものについては節操なく手を出す器用な人間でありたい。
光嶋裕介はそういう建築家だと思っている。建築だけでなく、ドローイングやエッセイ、ステージデザインもこなすが、「心地よい空間を形にする」という点では実は共通している。「これをつくるんだ!」という軸があれば、つくるものは何でも良い。内田樹、アジカンの後藤正文、いとうせいこうらと「空間を身体で思考する」というテーマで語り合う対談集を読んで、そう思った。