小学生の時、硬筆の授業があった。芯がやわらかくて太い硬筆鉛筆は、HBの鉛筆に使い慣れていた当時の小学生にとっては書きにくく、むずむずした記憶がある。なぜこの鉛筆を使う必要があるのだろう、という疑問を抱きながら、文字を書いていた。当時から字が下手だと感じていたから、字を丁寧に、上手に書こうとする授業に対して良い思い出はあまりなかった。
時を経て、社会人になってからの話。そもそも日常生活で鉛筆を使わなくなったというのに、銀座の月光荘で8Bの鉛筆を買った。昔使った硬筆鉛筆が確か2B~4B。それを上回る芯のやわらかさだ。こうやって使うんだ、という明確なものはない。ただ、鉛筆を使いこなしていた小学生の頃の手癖をなくしたくなくて、また、思い立ったらさらさらとスケッチをするような「風景を紙に落とし込む」作業をハードルなくできるようになりたくて、手に取った。芯の減りは驚くほど少ない。だから使いこなしているとはとうてい言えないけれど、ペン入れの中にあるのを眺めるだけで、なんだか落ち着く。「手書きで文字を書きたい」という衝動を忘れさせないでいてくれる、魔法のような鉛筆だ。