途上の旅/若菜晃子 アノニマ・スタジオ
旅に対する憧れがほとんどない。人一倍、ない。旅が好きで、時間を作っては旅行を楽しんでいるという人を見るとうらやましく感じる一方、自分はそうはなれないなぁ、と突き放されたような気分になる。
だから、コロナ禍で自由気ままに旅できない状況を苦と思ったことはない。それよりも現実的な、都を超える仕事での電車移動だとか、そういったことにストレスを感じる。
本書の著者、若菜晃子さんはもともと、山登りの雑誌をつくる仕事をしていたそうだ。旅が好きだということは、このエッセイを読めばすぐにわかる。異国のにおいがぷんと鼻をつく。そのにおいにあまり憧れない私にとってはまさに馬の耳に念仏。けれど、実際に旅に出ずとも、字を読むだけで、日本で過ごす限り体験できない刺激を受けられるという点では、旅好きにとっての旅行と同じものを得ているのかもしれない。