悲しみの秘義/若松英輔 ナナロク社
建築家の光嶋裕介氏のトークイベントに参加したとき、わたしは建築設計事務所でコーポラティブハウスのコーディネートをしていた。コーディネーターとして自由な住まいづくりとその後の暮らしを支えていきたい、という意欲にあふれていた頃だ。昼間、吉祥寺のコーポラで仕事をした後、その足で下北沢の本屋B&Bにかけつけ、トークを聞いたのを覚えている。外の人間である「建築家」に生で触れて、刺激を受けたかった。だからトークイベントで彼が対談者の本を絶賛していたのを聞いて、それならわたしも読んでみよう、という気持ちになった。
その本「悲しみの秘義」を読むと、なんというかこう、心臓が静まり返るような感じがする。本当に強い悲しみを自分はまだ体感したことがないのかもしれない。もしそれを体感したら、つらさに押しつぶされるんじゃないかと心配になる。でもその悲しさは、単なる悲しみでは終わらなくて、著者の言葉を借りれば、「悲しみは別離に伴う現象ではなく、亡き者の訪れを告げる出来事だと感じることはないだろうか」。そう考えると、怖いのだけれど怖がる必要はなく、訪れないことを望みはするけれど訪れたことに失望する必要はない、とも思える。
このトークイベントがきっかけで若松英輔さんを知り、著書を片っ端から読むようになった。悲しみに堂々と向き合うその覚悟はきっと心の強さとなり、建築に限らず、ものをつくって他人の暮らしを支えるための燃料になるのかもしれない。
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