幸せに気づく世界のことば/メーガン・C・ヘイズ著 田沢恭子訳 フィルムアート社
数年前。夏休みに地元近くの川沿いにドライブに出かけた。当時忙しかった仕事で心が詰まっていたのを、なんとか開放させたいと思ったのだろう。自然の岩畳がなす景色の美しさに、全身の力が抜けた。
実家のすぐ近くの道路から、遠くを眺めるのが好きだった。当時、通学するために通らなければならない急な上り坂があって、その坂の方を眺める。あたりは畑ばかり。そんな風景を当時は当たり前だと思っていたけれど、社会人になって千葉や都内に来てから、そうした風景が決して当たり前のものではないのだと知る。
ほかにも、たくさん経験しているはずだ。美しい自然の風景を見て圧倒され、それに対して自分の器の小ささを思い知る。そんな体験、いくらでもあるはずなのに、たいして思い出せない自分の「美しいものを記憶にとどめておこうとする注意力のなさ」よ。この本に登場する『幽玄』という言葉が、美しいものを見たときの感情の揺れ動きを的確に示している。それを心にとどめておきさえすれば、いつか忙しさにやられて悩みに押しつぶされて、心をなくしそうな場面があっても、「自分は幸せなんだ」と気づけるのだろう。