百日紅と太陽

  真夏の太陽に向かって枝を伸ばし、花を咲かせるサルスベリのように。自分の成長を実感できるような読書体験を届ける本屋です。

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愉快のしるし

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愉快のしるし/永井宏 信陽堂

 

本屋でその装丁の美しさにうっとりして、思わず手に取った本はたいてい、持ち帰った後も輝き続けている。本棚で他の本と一緒に並べてもひと際目立っていて、その本の周辺の空気が清浄化されているような、そんな気さえする。「モノとして美しい本」私にとってそのうちの一冊が、これだ。

 

葉山にあるショップ「SUNSHINE+CLOUD」の手作りカタログに載せたテキストを集めたもので、エッセイ集というより、一人の美術作家の16年の思考の記録のように思える。目に見える景色から感じとったことを素直に言葉に変換した、その短いテキストの羅列を眺めていると、言葉を使って何かを表現することの偉大さを感じる。とともに、その偉大な行為によって生まれたものを、「本を読む」という誰にでもできる行為によって味わえるということに、幸せを感じずにいられないのだ。

 

何もてらうことなく、ありのままの自分をその日その日に言葉に置き換える。それを例えば10年続けたら。その言葉の集合体はきっと、何よりも正確に自分を表現するものになっているに違いない。言葉には、本には、そんな人を写す鏡のような側面がある。