建築家の光嶋裕介氏のトークイベントがあるということで下北沢の本屋B&Bに行ったのが数年前。建築家が建築と向き合う姿勢を見て勉強しようという目的だったが、そのトークイベントの対談者である批評家の若松英輔氏の「悲しみの秘義」を光嶋氏が絶賛していたので、彼の本も読んでみようと思った。そうして最初に手に取った本が、「言葉の贈り物」だった。「悲しみの秘義」は、当時なぜか手に取りづらく、その時の自分には難しくて読めないのではないかと感じた。
彼の本は何冊も自分の本棚におさめているけれど、結果、この「言葉の贈り物」が一番心にしみて、自分を勇気づけてくれる存在になっている。読み終えた本からだけでなく、読みたいけれど読めていなくて、いずれ読みたいと願う本からも人は影響を受けるということ。人が手にすべき本は、誰もが絶賛するようなおススメ本・有名本ではなく、自分だけが読み解くことができる世界でただ一冊の本であること。人が何かを書こうとする理由は、伝えたいことがあるからだけでなく、伝えきれない何かがあるからだということ。だから、なかなか書けずに苦労するのは当然であり、むしろ書けないことに直面しないで生み出した言葉で他人の心の奥底に呼びかけることはできないということ。こうした「本との向き合い方」「言葉との向き合い方」を、この本から学んだ。
『「私」だけが読み解くことができる世界にただ一冊の本』とは、私にとってはこの本だと思った。